炭酸の抜けたオランジーナ

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歯医者にて「あえて抵抗しない」を学んだ話

2020年7月12日。
世間が、某感染症の話題でひっきりなしの中、私はとある病気になった。

それは、虫歯である。私は、今までの人生、26年の中で親知らずを抜いた一回しか歯医者にいったことがない。ただ、正直に言おう。

私は、歯医者の恐怖を直前までナメていた。

なんとかなるだろう。そう思っていた。歯医者が終わったらカラオケに行こうかなと思うぐらいにはナメきっていたのだ。

そして、待合室。僕は少しだけ緊張こそすれどジェットコースターに並んでいる子供のような心持ちだった。少しの恐怖とちょっとしたワクワク感が入り混じったような、青臭い時間を過ごしていた。

そして、名前が呼ばれる。

合皮の硬い椅子に座らされリクライニングが倒される。そして、僕は「目隠し」をされたのだ。

目隠しをされた瞬間、一気に怖くなった。目からの情報がない分、聴覚や触覚が敏感になり、口の中を触れる歯医者さんの指の動きや、周りで話している看護師さんの声が頭の中で情報として駆け巡る。

それなのに、僕は何をされているのか?どういう状況なのか?いつになったら終わるのか?何も知らされず、何も分らずに口をただ開けているだけだった。恐怖で椅子の手すりを掴みながら、激しい音を出して僕の歯は削られている。

「僕はあえて抵抗しない」

恐怖に負けないように、必死に思いついた言葉がこれだった。そう、今の僕は完全に歯医者さんには勝てない。目隠しされている上、相手は謎の武器を手に持ち、口の中にそれをぶち込んでいる。

なんなら、変な味のする薬品をひたすら口に投入している。

完全なる敗北だ。だからこそ、僕は「あえて抵抗しない」と心を勇気付けたのだ。

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30分ほどして、ようやく治療が終わった。
変に力が入ったせいで、二の腕が少し痛い。しかも、麻酔でふにゃふにゃとしか喋れないようになってしまっていた。

ただ、どうだろう?
少し考えて欲しいのだが、この未来が見えていたら僕はこんなにも恐怖を感じていただろうか?

きっと、感じてはいなかったのだと思う。正直、今も少しばかり痛むが大したことはない。治療自体も痛くはなかった。

あんなに恐怖を感じていたのに、終わってみると「大したことなかった」のだ。

きっと、あなたも経験があるのではないだろうか?僕は歯医者だったが、入社初日や商談、告白、スノーボードなんかなんでもいい。チャレンジするのは怖いけど、やってみると大したことなかったことだ。

多分、やったあとで自分がどうなるか想像できないから生じる恐怖なのだろう。僕にとって歯医者がまさしくそれだったという話だ。ただ、今となっては、そんなことも「やってみると大したことないのだ」

そんな事を考えながら。歯医者から歩いて帰っていると、僕には「怖かったけど、やってみると大したことなかった」が世界を埋め尽くしているような気がした。

自分の中で「これをするのは少しいやだ。怖い。」などと思っているものが人にはあると思う。ただ、僕は今日を限りにそれを断ったりするのは辞めようかと思ったのだ。

「僕はあえて抵抗しない」

時には流れに身を任せ、反発でなく許容で全てを差し出すことも悪くはない。と勝手に思った。

何かに恐怖を感じたらこう思う「僕はあえて抵抗しない」

もし、何かで恐怖を感じたら呟いて見て欲しい。きっと挑戦してみる勇気が湧いてくるはずだ。